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原告適格の判断基準|法律上の利益を有する者とは

取消訴訟における原告適格の判断基準を判例とともに徹底解説。行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する者」の意義、2004年改正で追加された9条2項の考慮事項、主婦連ジュース事件・新潟空港訴訟・小田急高架訴訟・もんじゅ訴訟の判例を整理します。

はじめに|原告適格とは何か

取消訴訟における原告適格とは、ある処分の取消しを求めて訴えを提起する資格のことです。取消訴訟は「誰でも」提起できるものではなく、一定の要件を満たす者だけが原告となることができます。

行政事件訴訟法9条1項は、取消訴訟の原告適格を「処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる」と規定しています。

この「法律上の利益を有する者」の範囲をどのように解釈するかが、原告適格の中心的な論点です。行政書士試験では、原告適格の判断基準と主要判例が毎年のように出題される最重要テーマの一つです。

原告適格の意義と判断基準

行政事件訴訟法9条1項

行政事件訴訟法9条1項
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
――行政事件訴訟法9条1項

「法律上の利益を有する者」の解釈

「法律上の利益を有する者」の解釈については、学説上大きく2つの見解が対立してきました。

法律上保護された利益説(判例の立場)

処分の根拠法規が個々人の個別的利益として保護している利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に原告適格を認める見解です。単なる事実上の利益や反射的利益は含まれません。

法律上保護に値する利益説

根拠法規だけでなく、処分によって侵害される利益の内容・性質・程度等を総合的に考慮して、法的保護に値する利益がある者に原告適格を認める見解です。法律上保護された利益説よりも広く原告適格を認める方向の見解です。

判例は一貫して法律上保護された利益説を採用していますが、2004年の行政事件訴訟法改正により、9条2項が新設され、判断枠組みが実質的に拡充されています。

2004年改正と9条2項の新設

改正の背景

旧法下では、原告適格の範囲が狭く解釈される傾向があり、処分によって実質的に不利益を受ける周辺住民等が訴訟を提起できないケースが少なくありませんでした。そこで、2004年の行政事件訴訟法改正により9条2項が新設され、裁判所が原告適格を判断する際の考慮事項が明示されました。

9条2項の内容

行政事件訴訟法9条2項
裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
――行政事件訴訟法9条2項

考慮事項の整理

9条2項が裁判所に求める考慮事項を整理すると、以下のとおりです。

  1. 根拠法令の趣旨及び目的(文言のみによらない)
  2. 関係法令の趣旨及び目的(目的を共通にする関係法令がある場合)
  3. 考慮されるべき利益の内容及び性質
  4. 法令違反の場合に害される利益の内容・性質・態様・程度

重要なのは、9条2項は処分の「相手方以外の者」について原告適格を判断する際の規定である点です。処分の相手方については、通常、原告適格が問題なく認められます。

主要判例の整理

主婦連ジュース事件(最判昭和53年3月14日)

事案の概要

主婦連合会(消費者団体)が、公正取引委員会が行った「果汁飲料等の表示に関する公正競争規約」の認定処分に対し、消費者の利益を害するとして不服申立てをした事案です。

争点

消費者団体である主婦連に、不服申立ての原告適格(審査請求適格)が認められるかが争われました。

判旨

最高裁は、主婦連の審査請求適格を否定しました。

景品表示法の規定により一般消費者が受ける利益は、同法の規定の目的である公益の保護の結果として生ずる反射的な利益にすぎず、法律上保護された利益とはいえない。

ポイント: 消費者の利益は「反射的利益」にとどまり、法律上保護された個別的利益ではないとして、原告適格が否定された。

新潟空港訴訟(最判平成元年2月17日)

事案の概要

新潟空港の定期航空運送事業免許の付与処分に対し、空港周辺の住民が騒音被害を理由として取消訴訟を提起した事案です。

争点

飛行場周辺住民に、運輸大臣(当時)が行った航空会社に対する免許付与処分の取消しを求める原告適格が認められるかが争われました。

判旨

最高裁は、周辺住民の原告適格を肯定しました。

航空法は、飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によって障害を受けないという利益を、個々の住民の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される。

ポイント: 航空法の趣旨を解釈し、周辺住民の騒音被害からの保護を個別的利益として認めた。処分の相手方以外の第三者に原告適格を認めた重要判例。

小田急高架訴訟(最大判平成17年12月7日)

事案の概要

小田急小田原線の連続立体交差化事業(高架化事業)に関する都市計画事業認可処分に対し、沿線住民が取消訴訟を提起した事案です。

争点

都市計画事業認可の取消訴訟における沿線住民の原告適格の範囲が争われました。

判旨

最高裁大法廷は、2004年改正後の9条2項の趣旨を踏まえ、従来よりも広く原告適格を認めました。

都市計画法は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的とし(1条)、都市計画事業の認可に際しては事業地及びその周辺の環境に配慮すべきものとしている。また、公害防止計画の達成に努めるべきことを定めた規定(33条1項7号等)は、事業地周辺に居住する住民の健康又は生活環境に対する著しい被害を受けないという利益を、一般的公益の中に吸収解消させることなく、個々の住民の個別的利益としても保護する趣旨を含むものと解される。

ポイント: 9条2項の考慮事項に基づき、根拠法令である都市計画法だけでなく、関係法令(公害防止計画等)の趣旨も参酌して、原告適格の範囲を広く認めた。9条2項の適用例として最も重要な判例。

もんじゅ訴訟(最判平成4年9月22日)

事案の概要

高速増殖炉「もんじゅ」の原子炉設置許可処分に対し、周辺住民が取消訴訟を提起した事案です。

争点

原子力施設周辺住民に、原子炉設置許可処分の取消しを求める原告適格が認められるかが争われました。

判旨

最高裁は、周辺住民の原告適格を肯定しました。

原子炉等規制法24条1項3号所定の技術的能力及び4号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落があった場合には、当該原子炉施設の従業員やその周辺に居住する住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能により汚染する等、深刻な災害を引き起こすおそれがある。このような災害の性質に鑑みれば、原子炉等規制法は、単に公衆の生命、身体の安全等を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、原子炉事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される。

ポイント: 被害の重大性(生命・身体への危害)を考慮し、周辺住民の原告適格を認めた。利益の内容・性質・態様・程度を考慮するという9条2項の考え方の先駆けとなった判例。

原告適格が否定された判例

判例の傾向

原告適格が否定される場合は、以下のいずれかのパターンに該当することが多いです。

  1. 反射的利益にとどまる場合: 法律が保護する公益の反射的効果として利益を受けているにすぎない場合
  2. 不特定多数の一般的利益にとどまる場合: 特定の個人の個別的利益として保護されているとまでは言えない場合
  3. 法律上の利害関係がない場合: 事実上の不利益はあるが、法的に保護される利益がない場合

具体例

  • 主婦連ジュース事件(前掲): 消費者の利益は反射的利益にすぎないとして否定
  • 近鉄特急料金訴訟(最判平成元年4月13日): 鉄道利用者の利益は反射的利益にすぎないとして否定

原告適格の判断の枠組み(まとめ)

原告適格の判断は、以下の手順で行います。

ステップ1:処分の相手方かどうか

処分の相手方であれば、通常は原告適格が認められます。問題となるのは、処分の相手方以外の第三者です。

ステップ2:根拠法令の趣旨・目的の検討

処分の根拠となる法令が、原告の主張する利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を含むかを検討します。

ステップ3:関係法令の趣旨・目的の参酌

根拠法令と目的を共通にする関係法令があれば、その趣旨及び目的も参酌します(9条2項)。

ステップ4:利益の内容・性質の考慮

侵害される利益が生命・身体・健康といった重要な利益であるほど、個別的利益として保護される方向に判断が傾きます。また、被害が直接的で重大であるほど、原告適格が認められやすくなります。

ステップ5:結論

以上の検討を総合して、当該第三者が「法律上の利益を有する者」に該当するかを判断します。

試験対策上の重要ポイント

押さえるべき判例一覧

判例名原告適格理由のポイント主婦連ジュース事件否定消費者の利益は反射的利益新潟空港訴訟肯定騒音被害からの保護は個別的利益もんじゅ訴訟肯定生命・身体の安全は個別的利益小田急高架訴訟肯定9条2項を適用し広く認定近鉄特急料金訴訟否定利用者の利益は反射的利益

9条2項の条文知識

9条2項の条文は長文ですが、以下の要素を正確に覚えておく必要があります。

  • 「相手方以外の者」についての判断基準であること
  • 根拠法令の文言のみによらないこと
  • 関係法令の趣旨・目的も参酌すること
  • 利益の内容・性質・態様・程度を勘案すること

まとめ

原告適格は、取消訴訟における最重要論点の一つです。以下の点をしっかり整理しておきましょう。

  • 原告適格は「法律上の利益を有する者」に認められる(9条1項)
  • 判例は「法律上保護された利益説」を採用
  • 2004年改正で9条2項が新設され、判断の考慮事項が明示された
  • 処分の相手方以外の第三者の原告適格は、根拠法令・関係法令の趣旨目的、利益の内容・性質等を総合的に考慮して判断する
  • 主婦連ジュース事件、新潟空港訴訟、もんじゅ訴訟、小田急高架訴訟の判旨と結論を正確に覚える

条文と判例の両方を確実に押さえることが、この分野での得点につながります。

確認問題

行政事件訴訟法9条2項の考慮事項は、処分の相手方の原告適格を判断する際にも適用される。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
行政事件訴訟法9条2項は「処分又は裁決の相手方以外の者について」法律上の利益の有無を判断する際の考慮事項を定めたものです。処分の相手方については通常原告適格が認められるため、9条2項の考慮事項は処分の相手方以外の第三者について適用されます。
確認問題

主婦連ジュース事件において、最高裁は消費者団体である主婦連合会の原告適格(審査請求適格)を肯定した。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
主婦連ジュース事件(最判昭和53年3月14日)において、最高裁は消費者の利益は景品表示法の目的である公益の保護の結果として生ずる「反射的利益」にすぎないとして、主婦連合会の審査請求適格を否定しました。
確認問題

小田急高架訴訟(最大判平成17年12月7日)において、最高裁は行政事件訴訟法9条2項の趣旨を踏まえ、根拠法令だけでなく関係法令の趣旨も参酌して原告適格の範囲を判断した。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
小田急高架訴訟において最高裁大法廷は、2004年改正で新設された9条2項の考慮事項に基づき、根拠法令である都市計画法の趣旨だけでなく、公害防止計画等の関係法令の趣旨も参酌して、従来よりも広く沿線住民の原告適格を認めました。9条2項の適用例として最も重要な判例です。
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