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行政行為の瑕疵|無効と取消しの区別を解説

行政行為の瑕疵(かし)を体系的に解説。取消しうべき行政行為と無効な行政行為の区別、重大かつ明白な瑕疵(重大明白説)の判断基準、瑕疵の治癒・違法行為の転換、重要判例を網羅し、行政書士試験の得点力を高めます。

はじめに|瑕疵ある行政行為とは

行政行為は、法律に基づいて適法に行われることが原則です。しかし、現実の行政活動においては、法律の要件を満たさない行政行為がなされることがあります。このような法律上の瑕疵(欠陥)のある行政行為を「瑕疵ある行政行為」といいます。

瑕疵ある行政行為の取扱いは、行政法学における最も重要な論点の一つです。瑕疵の程度に応じて「取消しうべき行政行為」と「無効な行政行為」に区分され、両者では法的効果が大きく異なります。

行政書士試験では、この区別が択一式・記述式の両方で出題されます。特に記述式では、無効と取消しの区別の基準(重大明白説)を正確に論述することが求められます。

本記事では、瑕疵ある行政行為の分類、無効と取消しの区別の基準、瑕疵の治癒と違法行為の転換、そして関連する重要判例を解説します。

瑕疵ある行政行為の分類

瑕疵の意味

行政行為の瑕疵とは、行政行為が法律の定める要件を欠いていることをいいます。具体的には、以下のような場合に瑕疵が生じます。

  1. 主体に関する瑕疵: 権限のない行政庁が処分を行った場合、意思能力を欠く公務員が処分を行った場合
  2. 内容に関する瑕疵: 処分の内容が法律に違反する場合、処分の内容が不明確な場合、処分の内容が実現不可能な場合
  3. 手続に関する瑕疵: 法律が要求する手続(聴聞、理由の提示など)を欠いた場合
  4. 形式に関する瑕疵: 法律が要求する形式(書面など)を欠いた場合

取消しうべき行政行為と無効な行政行為

瑕疵ある行政行為は、瑕疵の程度に応じて以下の二つに分類されます。

取消しうべき行政行為: 瑕疵はあるが、権限ある機関によって取り消されるまでは一応有効な行政行為。公定力が認められる。

無効な行政行為: 瑕疵が重大であり、初めから法律上の効力を有しない行政行為。公定力が認められない。

この区別の実益は極めて大きく、以下の表のとおり法的効果が全く異なります。

項目取消しうべき行政行為無効な行政行為効力取り消されるまで有効初めから無効公定力ありなし不可争力あり(出訴期間の制限)なし(いつでも主張可能)争い方取消訴訟・審査請求無効等確認訴訟・当事者訴訟・民事訴訟出訴期間あり(6か月・1年)なし事情判決あり得るなし主張権者限定される何人も主張可能

無効と取消しの区別の基準

重大明白説(通説・判例)

無効な行政行為と取消しうべき行政行為を区別する基準として、通説・判例は「重大明白説」を採用しています。

重大明白説によれば、行政行為の瑕疵が重大かつ明白である場合に、その行政行為は無効となります。

  • 重大性: 瑕疵が法律上の重要な要件に違反していること
  • 明白性: 瑕疵の存在が処分の外形上から一見して看取しうるほど明白であること

両方の要件を満たすことが必要であり、瑕疵が重大であっても明白でなければ無効とはならず、取消しうべき行政行為にとどまります。

重大明白説の判例

最判昭和31年7月18日(農地買収処分事件)

最高裁は、行政処分の無効について以下のように判示しました。

行政処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、ここに重大かつ明白な瑕疵とは、処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵がある場合を指す。

この判例は、重大明白説を採用した代表的な判例です。

最判昭和36年3月7日(明白性の判断基準)

明白性の判断基準について、最高裁は以下のように判示しました。

瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであって、行政庁が怠慢によりその瑕疵を知らなかったかどうか、又は相手方がその瑕疵を知っていたかどうかということは、明白性の判断に直接関係はない。

つまり、明白性は処分の外形を客観的に判断するものであり、行政庁や相手方の主観的認識は問いません。

明白性の補充要件説

通説の重大明白説に対し、明白性を常に必要とするのは妥当でないとする見解もあります。

最判昭和48年4月26日(課税処分と明白性)

最高裁は、課税処分の無効について「課税処分における内容上の過誤が課税要件の根幹にかかわる重大なものであり、客観的に明白であるか否かにかかわらず、その瑕疵が無効原因にあたる場合がある」旨を示唆する判断をしています。

この判例は、重大明白説の原則を維持しつつも、明白性の要件を緩和する余地を認めたものとして注目されます。ただし、この判例の射程については学説上の争いがあり、一般に明白性の要件が不要とされたわけではありません。

取消しうべき行政行為

取消しの意義

取消しとは、瑕疵のある行政行為について、その瑕疵を理由として行政行為の効力を遡及的に消滅させることをいいます。

取消しには以下の二つの種類があります。

  1. 争訟取消し: 取消訴訟や審査請求による取消し。国民の側からの取消請求
  2. 職権取消し: 行政庁自らが行う取消し。行政庁の側からの取消し

争訟取消し

争訟取消しは、取消訴訟(行政事件訴訟法第3条第2項)または審査請求(行政不服審査法第2条)によって行われます。

取消訴訟の要件は以下のとおりです。

  • 処分性: 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為であること
  • 原告適格: 処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者であること
  • 狭義の訴えの利益: 処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があること
  • 出訴期間: 処分があったことを知った日から6か月以内、処分の日から1年以内

職権取消し

職権取消しとは、処分庁又はその上級行政庁が、瑕疵ある行政行為を自らの判断で取り消すことをいいます。

職権取消しには一般法上の明文規定はありませんが、行政庁の権限として当然に認められると解されています。

ただし、職権取消しの行使にも一定の制約があります。特に、授益的行政行為(国民に利益を与える行政行為)の職権取消しについては、国民の信頼保護の観点から制限が課されます。

授益的行政行為の職権取消しに関する判例

最判昭和43年11月7日は、農地買収計画の取消しについて「既に生じた効果を覆滅させることが公共の福祉の要請に照らし必要やむを得ない場合に限り許される」と判示しました。

つまり、授益的行政行為の職権取消しは、取消しによって生じる国民の不利益と、取消しをしないことによる公益上の不利益とを比較衡量して判断されます。

取消しと撤回の区別

行政行為の「取消し」と「撤回」は明確に区別される概念です。

項目取消し撤回理由行政行為の成立時に存在した瑕疵行政行為の成立後に生じた事由効果遡及的に効力消滅(初めからなかった)将来に向かって効力消滅根拠行政行為に瑕疵があること公益上の必要、法律の要件変更など

撤回の具体例:

  • 法令違反を理由とする営業許可の取消し(講学上は「撤回」)
  • 公益上の必要による許可の取消し

法律の条文上は「取消し」と表記されていても、講学上は「撤回」に該当するものが多いことに注意が必要です。例えば、食品衛生法に基づく営業許可の「取消し」は、成立後の法令違反を理由とするものであり、講学上は「撤回」です。

無効な行政行為

無効の意義

無効な行政行為とは、瑕疵が重大かつ明白であるために、初めから法律上の効力を有しない行政行為をいいます。

無効な行政行為の特徴は以下のとおりです。

  1. 公定力がない: 何人も、取消手続を経ることなくその無効を主張できる
  2. 不可争力がない: 出訴期間の制限なく、いつでも無効を主張できる
  3. 争い方が多様: 無効等確認訴訟(行政事件訴訟法第36条)のほか、当事者訴訟、民事訴訟でも無効を主張できる
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができる。 ― 行政事件訴訟法 第36条

無効原因の具体例

判例上、行政行為が無効とされた主な例を紹介します。

  1. 権限のない行政庁による処分: 処分権限のない行政庁がした処分は、重大かつ明白な瑕疵があり無効
  2. 内容が不能な処分: 存在しない土地に対する課税処分など、実現不能な内容の処分は無効
  3. 相手方の誤認: 全く別人に対してなされた処分は無効

無効な行政行為に関する判例

最判昭和34年9月22日(農地買収処分の無効)

買収すべき土地を誤認してなされた農地買収処分について、最高裁は「買収の対象たる土地の認定につき重大かつ明白な瑕疵がある」として処分の無効を認めました。

最判昭和48年4月26日(課税処分の無効)

前述のとおり、課税処分の無効について明白性の要件を柔軟に判断した判例です。課税要件の根幹にかかわる重大な過誤がある場合に無効の可能性を認めました。

最判平成15年1月17日(在外邦人選挙権剥奪違憲訴訟との関連)

この判例は直接的に行政行為の無効を扱ったものではありませんが、公法上の法律関係に関する確認訴訟の活用を認めたもので、無効確認訴訟の補充性要件との関係で重要です。

瑕疵の治癒と違法行為の転換

瑕疵の治癒

瑕疵の治癒とは、行政行為に瑕疵があったが、後の事情の変化により瑕疵が治癒される(なくなる)ことをいいます。

具体例: 理由の提示を欠く処分がなされた後、事後的に理由が示された場合

瑕疵の治癒が認められるかについては議論があります。判例は、一定の場合に瑕疵の治癒を認めています。

最判昭和47年12月5日(理由の追完)

青色申告の更正処分に理由付記の瑕疵があった場合について、最高裁は原則として瑕疵の治癒を認めない立場をとりました。

更正通知書に附記理由が不備である以上、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより更正のかしが治癒されるものではない。

この判例は、手続的瑕疵の治癒について厳格な態度をとった重要判例です。理由付記の制度趣旨(行政庁の判断の慎重・合理性を担保し、不服申立ての便宜を与える)を重視し、事後的な理由の追完では瑕疵は治癒されないとしました。

瑕疵の治癒が認められる場合

ただし、すべての場合に瑕疵の治癒が否定されるわけではありません。瑕疵が軽微であり、当事者の権利利益が実質的に害されていない場合には、治癒が認められる余地があります。

違法行為の転換

違法行為の転換とは、ある行政行為が本来の意図された行為としては違法であるが、別の行政行為としての要件を満たしている場合に、その別の行政行為として有効と扱うことをいいます。

具体例: 農地買収処分が自作農創設特別措置法上は違法であるが、農地法上の買収処分としての要件を満たしている場合に、農地法上の処分として有効と扱う

違法行為の転換については、法律による行政の原理との緊張関係があり、安易に認めるべきではないとされています。転換が認められるための要件として、以下のものが挙げられます。

  1. 転換先の行政行為の要件を満たしていること
  2. 転換により国民の権利利益が害されないこと
  3. 転換を認めることが法律の趣旨に反しないこと

判例上、違法行為の転換が認められた例は限定的です。

瑕疵の承継

瑕疵の承継とは、先行の行政行為の瑕疵を後続の行政行為の取消訴訟において主張できるかという問題です。

原則として、先行行為と後続行為が別個の行政行為である場合、先行行為の瑕疵は後続行為に承継されません。先行行為に不服がある場合は、先行行為自体を争うべきとされます。

しかし、先行行為と後続行為が連続した一連の手続を構成し、先行行為の適否を独立して争わせることが不合理な場合には、例外的に瑕疵の承継が認められます。

最判平成21年12月17日(建築確認と安全認定)

最高裁は、建築確認における安全認定の瑕疵について、安全認定と建築確認が結合して一つの効果を生じるものであるとして、安全認定の瑕疵を建築確認の取消訴訟で争うことができると判示しました。

この判例は、瑕疵の承継を認めた重要判例です。

試験での出題ポイント

行政行為の瑕疵に関する行政書士試験の出題ポイントを整理します。

  1. 無効と取消しの区別の基準: 重大明白説(通説・判例)の内容を正確に記述できるようにする。記述式で「無効な行政行為とは何か」「無効と取消しの区別の基準は何か」が問われた場合に、「瑕疵が重大かつ明白である場合に行政行為は無効となる」と書けるようにする
  2. 無効な行政行為の法的効果: 公定力・不可争力がないこと、出訴期間の制限なく争えること、無効等確認訴訟以外の方法でも争えることを理解する
  3. 取消しと撤回の区別: 取消しは成立時の瑕疵を理由に遡及的に効力を消滅させるもの、撤回は成立後の事由により将来に向かって効力を消滅させるもの。法律上の「取消し」が講学上は「撤回」であることが多い
  4. 職権取消しの制限: 授益的行政行為の職権取消しは信頼保護の観点から制限される。比較衡量論を理解する
  5. 瑕疵の治癒に関する判例: 青色申告更正処分の理由付記の瑕疵について治癒を認めなかった最判昭和47年12月5日は必須判例
  6. 瑕疵の承継: 原則否定・例外的に肯定という枠組みと、最判平成21年12月17日の判旨を理解する
  7. 明白性の補充要件説: 課税処分について明白性の要件を柔軟に判断した最判昭和48年4月26日を理解する
確認問題

行政行為の瑕疵が重大であっても明白でない場合、通説・判例(重大明白説)によれば、当該行政行為は無効とはならず取消しうべき行政行為にとどまる。

○ 正しい × 誤り
解説
重大明白説によれば、行政行為が無効となるためには瑕疵が「重大」であり、かつ「明白」であることが必要です。重大性のみでは無効とはならず、取消しうべき行政行為にとどまります。ただし、課税処分等について明白性の要件を柔軟に判断する判例もあります。
確認問題

行政行為の「取消し」とは、成立後に生じた事由により将来に向かって効力を消滅させることをいう。

○ 正しい × 誤り
解説
設問の内容は「撤回」の定義です。「取消し」とは、行政行為の成立時に存在した瑕疵を理由として、遡及的に(初めからなかったものとして)効力を消滅させることをいいます。取消しと撤回の区別は頻出論点です。
確認問題

無効な行政行為については公定力が認められないため、出訴期間の制限なくいつでもその無効を主張することができる。

○ 正しい × 誤り
解説
無効な行政行為には公定力も不可争力も認められないため、出訴期間の制限なくいつでもその無効を主張できます。争い方も無効等確認訴訟に限られず、当事者訴訟や民事訴訟でも主張可能です。

まとめ

行政行為の瑕疵は、行政法の中でも最も重要な論点の一つです。

瑕疵ある行政行為は、「取消しうべき行政行為」と「無効な行政行為」に区分されます。通説・判例が採用する重大明白説によれば、瑕疵が重大かつ明白である場合に行政行為は無効となります。無効な行政行為には公定力・不可争力が認められず、出訴期間の制限なくいつでもその無効を主張できます。

取消しと撤回の区別も重要です。取消しは成立時の瑕疵を理由とする遡及的消滅、撤回は成立後の事由による将来的消滅であり、法律上の用語と講学上の概念がずれることが多いため注意が必要です。

瑕疵の治癒については、最判昭和47年12月5日が理由付記の瑕疵の治癒を否定した重要判例です。違法行為の転換や瑕疵の承継についても、基本的な枠組みと代表的な判例を押さえておきましょう。

行政行為の効力(前の記事)と瑕疵(本記事)は密接に関連しており、両者を統合的に理解することで、行政書士試験における行政法の得点力が大きく向上します。

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