この法律は、平成二十八年四月一日から施行する。
前条の規定による改正後の会社法(以下この条において「新会社法」という。)第九百四十三条の規定の適用については、旧農協法第九十二条第五項(附則第十条の規定によりなおその効力を有することとされる場合を含む。)において準用する前条の規定による改正前の会社法第九百五十五条第一項の規定に違反し、刑に処せられた者は、新農協法第九十七条の四第五項において準用する新会社法第九百五十五条第一項の規定に違反し、刑に処せられたものとみなす。
この条文の過去問 1肢
結論:この肢は「正しい」。誤っているものを選ぶ本問では、正解肢になりません。
根拠条文は会社法395条です。同条は「取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が監査役の全員に対して監査役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を監査役会へ報告することを要しない」と定めており、この肢は条文の文言そのままです。監査役会への報告の省略を認める規定です。
理由づけとして、報告省略が認められる理屈を押さえましょう。監査役会に報告することの目的は、監査役全員が当該事項の情報を共有し、監査に活かせるようにすることにあります。そうであれば、既に監査役全員が個別に通知を受けて情報を得ている以上、あらためて監査役会を開いて報告する形式的手続を踏ませる意味はありません。実質的に目的が達成されているのだから、手続の重複を省いてよい、という発想です。「監査役の全員に対して」通知することが要件であり、一部の監査役への通知では足りない点に注意してください。
ひっかけポイントは、同趣旨の規定が他の機関にもある点との整理です。取締役会については会社法372条1項が「取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しない」と定めています。ここでは通知の相手方が取締役(監査役設置会社では取締役および監査役)の全員である点が、監査役会の場合と異なります。さらに重要な例外として、会社法372条2項は、会社法363条2項の報告、すなわち代表取締役および業務執行取締役が3か月に1回以上自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならないという義務については、この省略規定を適用しないと定めています。3か月に1回以上は現実に取締役会を開催しなければならないという実務上の重要ルールにつながります。
関連知識として、監査役会への報告義務の内容も確認しておきましょう。監査役は、監査役会の求めがあるときは、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければなりません(会社法390条4項)。また、取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに当該事実を株主(監査役設置会社では監査役、監査役会設置会社では監査役会)に報告しなければなりません(会社法357条1項・2項)。会計監査人も、その職務を行うに際して取締役の職務の執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく監査役(監査役会設置会社では監査役会)に報告しなければなりません(会社法397条1項・3項)。これらの報告ルートを図で整理しておくと、機関相互の関係が立体的に理解できます。
この法律の施行前にした行為並びにこの附則の規定によりなお従前の例によることとされる場合及びこの附則の規定によりなおその効力を有することとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
この条文の過去問 2肢
結論:この肢は「正しい」。
会社が取締役の住宅ローンについて保証人となる行為は、会社法356条1項3号にいう「株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき」、すなわち利益相反取引のうちの間接取引に当たります。取締役会設置会社では、356条1項の承認は株主総会ではなく取締役会の決議によることとされていますから(365条1項)、本肢のとおり取締役会の決定を要します。したがって正しい記述です。
理由づけは、取締役と会社の利害対立の防止にあります。会社が取締役の個人的な借入れの保証人になると、取締役本人は信用の供与という利益を受ける一方、会社は求償が回収できないリスクを負担します。取締役が自らの地位を利用して会社財産を犠牲にするおそれがあるため、事前に取締役会という合議体のチェックを受けさせ、事後にも取引後遅滞なく重要な事実を取締役会に報告させる(365条2項)という二段構えの規制が置かれているのです。承認を得ずにされた間接取引は、会社と第三者との間では原則として有効ですが、会社は第三者が承認のないことを知っていたこと(悪意)を主張立証すれば無効を対抗できると解されています(間接取引について相対的無効説を採った最大判昭和43年12月25日。なお、会社が取締役宛てに約束手形を振り出した事案につき同様の判断枠組みを示したものとして最大判昭和46年10月13日)。
ひっかけポイントを挙げます。第一に、承認の決議において当該取締役は特別の利害関係を有する取締役に当たるため、議決に加わることができません(369条2項)。定足数の算定からも除外されます。第二に、利益相反取引によって会社に損害が生じた場合、取引をした取締役、取引を決定した取締役、承認決議に賛成した取締役は任務を怠ったものと推定され(423条3項)、さらに自己のためにした直接取引の場合には無過失責任となり一部免除も認められません(428条)。本肢のように会社が取締役の債務を保証する場合は間接取引ですから、428条の加重は及びません。第三に、方向を逆にした「取締役が会社の債務を保証する」場合は、会社に利益しか生じないため承認は不要です。どちらが誰のために保証するのかを必ず確認してください。
結論:この肢は「正しい」。
会社法362条4項は、取締役会は「重要な業務執行の決定」を取締役に委任することができないとし、その例示として各号を掲げています。同項2号が「多額の借財」です。銀行から事業拡大のために多額の融資を受けることはまさに多額の借財に当たりますから、取締役会の決議を要します。したがって正しい記述です。
理由づけは、業務執行の決定権限の配分にあります。取締役会は業務執行の決定と取締役の職務執行の監督、代表取締役の選定・解職を職務とし(362条2項)、日常的な業務執行の決定は代表取締役等に委ねられます。しかし、会社の財産状態を大きく左右する事項まで一人の代表取締役の判断に委ねると、暴走を止められません。そこで「重要な業務執行」については必ず合議体である取締役会の決議を要求し、委任を禁じているのです。「多額」に当たるかどうかは、当該借財の額、会社の総資産および経常利益等に占める割合、借財の目的および会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断されるとするのが裁判例の考え方です(東京地判平成9年3月17日)。金額の絶対値だけで機械的に決まるものではない点に注意してください。
ひっかけポイントとして、362条4項各号は必ず一通り言えるようにしておきましょう。1号「重要な財産の処分及び譲受け」、2号「多額の借財」、3号「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」、4号「支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」、5号「社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項」、6号「内部統制システムの整備」、7号「役員等の責任の一部免除」です。「借財」には金銭消費貸借だけでなく、他人の債務の保証や債務引受けなど、会社が債務を負担する行為が広く含まれると解されています。また、大会社である取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く)では、6号の内部統制システムの整備の決定が義務づけられている点(362条5項)も頻出です。なお、362条4項の事項であっても、指名委員会等設置会社では執行役に、監査等委員会設置会社では一定の要件のもとで取締役に、それぞれ広く委任できる特則があります(416条4項、399条の13第5項・6項)。