無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。
この条文の過去問 2肢
結論:この肢は「誤り」。前段は条文どおりですが、後段の注意義務の程度の説明が逆です。善管注意義務は、自己の財産に対するのと同一の注意より「加重」されたものです。
根拠条文は民法298条1項で、「留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない」と定めています。ここまでは本肢のとおりです。
問題は注意義務の程度の理解です。民法上の注意義務には段階があり、重い順に、(1)善良な管理者の注意義務(善管注意義務)、(2)自己の財産に対するのと同一の注意義務、(3)自己のためにするのと同一の注意義務、といった区別がされます。善管注意義務は、その者の職業や地位、取引上の一般的通念に照らして客観的に要求される水準の注意であり、本人が普段どれだけ雑な管理をしているかとは無関係に判断されます。これに対し「自己の財産に対するのと同一の注意」は、その人自身の普段の管理水準を基準とする主観的・軽減された義務です。したがって、善管注意義務のほうが重い義務であり、本肢の説明は完全に逆になっています。
理由づけとしては、留置権者は他人の物を自己の債権のために留め置いているのですから、その物を丁寧に保管する義務を負うのが当然だ、という点にあります。留置は債務者に弁済を促すための手段であって、目的物を粗末に扱ってよい理由にはなりません。
ひっかけポイントは、まさにこの「加重/軽減」の入れ替えです。条文の文言は覚えていても、義務の重さの序列があいまいだと引っかかります。
関連知識として、「自己の財産に対するのと同一の注意」が用いられる典型例を押さえておきましょう。無報酬の受寄者の保管義務(659条)、相続の限定承認をした相続人の管理義務(926条1項)、相続放棄をした者の管理義務(940条1項)などがこれに当たります。反対に、善管注意義務が課される代表例は、受任者(644条)、有償の受寄者(400条・415条の一般原則)、特定物の引渡債務者(400条)、後見人(869条・644条準用)などです。留置権者はこの善管注意義務の側に位置づけられます。なお、留置権者が298条の義務に違反したときは、債務者は留置権の消滅を請求することができます(同条3項)。
結論:この肢は「誤り」。前段はおおむね条文どおりですが、後段の効果が違います。無断使用によって留置権が「直ちに消滅する」のではなく、債務者が消滅を「請求することができる」にとどまります。
根拠条文は民法298条2項と3項です。2項は「留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない」と定めます。3項は「留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる」と定めています。
つまり、義務違反があっても留置権が自動的に消滅するわけではなく、債務者側が消滅請求という形成権を行使してはじめて消滅します。債務者が請求しない限り留置権は存続しますし、消滅請求の効果は将来に向かって生じます。判例(最判昭和38年5月31日)も、298条3項による消滅請求は債務者の意思表示によって効力を生ずるとしています。
さらに、本肢は298条2項ただし書にも触れていません。「その物の保存に必要な使用」は承諾なしにできます。判例(大判昭和10年5月13日など)は、建物の留置権者が従前どおりその建物に居住することは保存に必要な使用に当たるとしています。ただし、その場合でも使用による利益は不当利得として所有者に返還すべきものとされます(留置権者は使用の対価を償還する義務を負う)。
ひっかけポイントは二つあります。第一に「直ちに消滅する」という自動消滅の書きぶり。民法では「〜することができる」という請求権・形成権構成が多く、自動的な効果発生と書き換えるのは典型的な誤り作りです。第二に、ただし書の保存に必要な使用の例外を落としている点です。本肢は「使用・賃貸・担保供与をなすことができず」と例外なしに述べており、この点でも正確さを欠きます。
関連知識として、留置権の消滅事由を整理しておきましょう。(1)298条3項の義務違反による消滅請求、(2)債務者が相当の担保を供して留置権の消滅を請求する場合(301条。この場合は留置権者の承諾が必要と解されています)、(3)占有の喪失(302条本文。ただし賃貸・質入れした場合は占有を失いません)、(4)被担保債権の消滅(付従性)、といった具合です。留置権には物上代位が認められない点(304条は先取特権の規定で、350条・372条により質権・抵当権に準用されるが留置権には準用がない)も、あわせて押さえてください。